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富山地方裁判所 平成4年(わ)38号 判決

被告人

氏名

鷲北利秋

年齢

大正一五年一一月五日生

本籍

富山県高岡市本丸町三七番地

住居

同県同市萩布五〇〇番地

職業

会社役員

検察官

坂口順造

弁護人

鍛冶富夫

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、富山県高岡市野村一七五二番地において「鷲北商店」の名称で機械工具販売及び鉄骨工事業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  平成元年分の実際総所得金額が一億九二四九万九五六一円(別紙1の修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、平成二年三月一二日、同市博労本町五番三〇号所在の所轄高岡税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が零円で、これに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると二万円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額八六七一万三〇〇円と右申告税額との差額八六七三万三〇〇円(別紙3の平成元年分ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成二年分の実際総所得金額が一億七六八三万一五二七円(別紙2の修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、平成三年三月六日、前記高岡税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が二七六一万八七一五円の損失で、これに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると二万円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額八三〇九万四〇〇〇円と右申告税額との差額八三一一万四〇〇〇円(別紙3の平成二年分ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書(五通)

一  被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書(一八通)

一  横山和代、渡辺悦子、堀井公雄及び鷲北譲の検察官に対する各供述調書

一  横山和代、渡辺悦子、堀井公雄(二通)及び鷲北譲(三通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  高岡税務署長作成の証明書三通〔検察官請求証拠等関係カード甲番号(以下単に「甲」という)43、48、51〕

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二七通(甲1から15、甲20から31)

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二通(甲16、18)

一  高岡税務署長作成の証明書四通(甲44、46、49、52)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二通(甲17、19)

一  高岡税務署長作成の証明書四通(甲45、47、50、53)

(法令の適用)

罰条 判示第一及び第二の各行為について、いずれも所得税法二三八条一項、二項

刑種の選択 判示第一及び第二の各罪について、いずれも懲役刑と罰金刑の併科

併合罪の処理 刑法四五条前段

懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)

罰金刑につき同法四八条二項

労役場留置 刑法一八条(金二〇万円を一日に換算)

刑の執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、機械工具販売及び鉄骨工事業を営んでいた被告人が、判示のとおり、平成元年及び平成二年の二年度にわたり総額一億六九八四万円余の所得税を免れたという事案である。その脱税額が右のとおり多額であり、かつ、ほ脱率はいずれも約一〇〇パーセントと極めて高率であるうえ、その所得秘匿の態様も、従業員に指示し架空仕入や給料賃金の水増し等の不正経理を日常的に行なわせて簿外資金を確保するなど悪質である。また、犯行動機も、事業経営が困難な時期に知人から借入れた多額の債務を返済する必要があったとはいうものの、右債務は無期限、無利息、無担保であったというのであるから返済について切迫した事情は認められず、結局のところ、短絡的に脱税という手段を選択した利己的なもので、格別同情することはできない。右の諸事情を考慮すれば被告人の刑事責任は重い。

しかしながら、他方、被告人は、前科前歴がなく、これまで堅実な家庭と事業を営み、社会人としてそれなりの実績を積み重ねてきたものであるところ、本件が発覚したことで、当然の報いとはいえ、ほ脱した所得税の本税、重加算税及び延滞税を全額納付するなど多額の出費を余儀なくされたうえ、マスコミ等を通じて地元で取り沙汰され、その信用を損なうなど相応の社会的制裁を受けていること、被告人は捜査公判を通じて犯行を素直に認め反省していることなど被告人のために酌むことができる事情もあるので、これら一切の事情を総合考慮のうえ、主文掲記の刑を量定し、懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円)

(裁判官 中山孝雄)

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